観劇記録:歌え、叫べ、世界を救え──ミュージカル『アンコール!』

当然の如くネタバレ大盛りなので観劇前の方は注意してほしい。

 

なんだかんだで今年はずっとIMPACTorsの「actors」と対峙している気がする。今回はIMPACTorsのマンネ・松井奏が主演を務める「ミュージカル『アンコール!』」を観てきた。
草月ホールの名前に微妙な聞き覚えはあったけれど、どうも確信は得られないまま、もしかしたら知っているかもしれない……という気持ちで会場に向かった。知っていた。ここ、たぶん5-6年前に来ている。なんなら当日券なのに最前でビビりながら舞台を見た場所だった。ちょっと懐かしかった。

初主演、初ミュージカル。SHOCKだとか歌舞伎だとかでステージに上がっているとはいえ、訳が違うとは思っていた。し、実際そうだった。同じ舞台上でのお芝居といったって、昔から住む街の祭りで神輿担ぎを任されるようなことと、全く知らない街で町興しをするようなことだ。勢いで譬えたけれど、別に本編とかけたわけではないので悪しからず。
観劇していない人のために、一応あらすじを置いておく。

舞台はとある田舎のカフェ。

大人気スターのカミト(松井奏)は、ある日コンサート中に突然声が出なくなってしまい、現在は親友のシン(宮下雄也)のカフェでひっそり働いている。

再びステージに立って欲しいと日々奮闘するマネージャーのユウト(長瀬結星)。

そして陽気な事務所の社長であるジョージ(大地洋輔)。

カミトはまた再びステージに立てるのかっ!?

公式サイトより引用)

カミトは、それはもうワガママで態度が悪くて愛想も無くて、基本的に足をおっぴろげているか組んでいるかみたいなクソ生意気ボーイ。作中、ソラ(石川凪子さん・シンの妹)が「カミトじゃなかったらぶん殴ってた(ニュアンス)」みたいなことをぼやくのだが、本当にそうだと思う。私でも殴ってたと思う。

サイトのあらすじでは「親友のシンのカフェで」とあるものだから、てっきり歌えなくなって自信をなくしてメンヘラ拗らせたカミトが、ユウトの説得と熱意、シンの支えによってなんとかステージに戻ってくる話なのかな、とか思っていた。しかし実際のところ、カミトとシンは親友というより、結果的にお互いのことを嫌いじゃないと思う程度には思い入れができた、という方が正しい気がする。
というのも、カミトが田舎──“月光町”にやって来た時点では、この二人は犬猿と言っていいほど仲が悪いのだ。シンはユウトの先輩で、「後輩の頼みだから仕方がなく」カミトを預かるし、カミトはカミトで「なんで俺がこんなことやらなきゃいけないんだ、身を隠すならもっと他にあっただろ、もう歌も歌えないままでもいい」とキレ散らかしている。たいへんワガママなベイビーちゃんである。
(ちなみにカミトは身を隠す候補としてロサンゼルスやニューヨークを挙げていた気がする、が、ユウトに「カミトさん英語苦手でしょ」とぶった切られていた。おまえ英語苦手なのにワールドツアー頑張ったんか。その時点で結構根性あるじゃんかよ

散々な言い様になってしまったので一応(?)言っておくが、もちろんカミトは本当に「才能も実力もある成功したアーティスト」なのだ。それに驕っているというよりは、自分の弱さと向き合えずにいるだけで。タイトルに採用した「歌え、叫べ、世界を救え」というのはジョージ(事務所の社長)が歌った言葉なのだが、実際、カミトはたくさんの人間の「世界」を救ってきたのだと思う。他の何にも代え難い、「カミトの歌」で。

カミトはカリスマ故に発症する奇病(カリスマ性うんたら病なのだが全然思いだせない、パンナコッタって入っていておなかがすいたことは覚えている)と診断され、またも「なんなんだよ」とキレ散らかす。それはそう。私も思った。
この診療所でのワンシーンで、カミトの目の前では「月光町音頭」というクソダサトンチキ愉快音頭が披露される。披露される、というか、カミトも一緒にやるよう促されるのだが、当然この時の彼がやるわけもない。
この時点で、「あ~~~~~~もう絶対この男はこの横柄な態度が改善して優しい言動をとるし絶対このトンチキ音頭自分から歌おうとして歌えるようになるじゃん~~~~~~~~~~~」と私は思った。結論から言うと、びっくりするくらいその通りだった。勘のいいガキも大概にしてほしい。

このミュージカルの魅力は、その“定石を崩さないところ”にあるのかもしれない、と思っている。

冷静に考察をしようとしてしまうと、正直突っ込みたいところは山ほど出てくるのだ。(事務所の規模とカミトのマーケティング合ってなくないか?とか、ここのシーンに意義は?とか)でも、「んなこと言う方が野暮なんだよ!!!!!!!」となる。トンチキにはトンチキの良さがある。それを半端にやるんじゃなくて、もうこれはそういうものだとやり切ってくれるから気持ち良い。これはこれで、成り立っているのだ。観る者の想像力だけでなく、物語への没入力(ぢから)が試される気がする。それはこのミュージカルに関わらずそうなのだけれども。
しかし同時に、ストーリーでなく歌で伏線を張ってくる一面もある。楽曲に仕掛けがあるのは、さすがはミュージカルといったところだろうか。(3人のソロ曲のハミングが、最終的にひとつの曲になるところとか)ミュージカルらしい旨味も残しつつ、できるだけ簡潔で、できるだけ定石を崩さないように作られているように思った。誰が見ても予定調和なのだ。それがまた、良い。個人的に。

さて、全体の話はこれくらいにして、ここからはカミト、というか松井奏の話をしようと思う。

脚なっっっっっっっっっが

背ぇたっっっっっっっっっっか

顔ちっっっっっっっっっさ

てか顔良……………………………………

IQの欠片も無い感想だが許してほしい。本当に脚が長かった。前述の通りカミトは度々脚を広げていたり組んでいたりと気だるげな様子なのだが、基本的に脚が余っていた。本当に。余っていた。しかも細かった。びっくりした。手足が長い。そこにいるだけで、本当にでかい。ステージ奥、階段の上に立っている時はまだいい。そこから降りてきてステージぎりぎりの位置に彼が来ると、あまりにも背が高くてビビり散らかした。スタイルおばけが過ぎる。

お芝居がどうか、といえば、まだまだ発展途上だとは思う。それでも、苛立ちに震える手や自嘲する笑みに嘘はない。腹の底から感情が込み上げてくる、そういうお芝居をする人だなと思った。歌も、きっと普段とは声の出し方から違うのだろう、聴き慣れた声なのに響きはそうではなかった。きっと私が想像しているよりも、ずっと「新たな挑戦」をしているに違いない、とも。特筆するとするなら、歌の抑揚が上手い。ここが山場だ、というのがはっきりわかる歌声だなと思った。歌まで素直なのだ。

それと同時に驚いた。ダンス上手いなこの人。

IMPACTorsでダンスといったら、個人的には椿泰我くんだと思っているのだが(見ていて気持ちがいいくらい楽しそうに踊るので、気になった人は見てみてほしい。)それとはまた違う「上手さ」だった。そしてなにより、普段のパフォーマンスとも違う「上手さ」だった。
感情表現としてのダンスが、上手すぎる。言い方を変えると、感情をダンスという手段を用いて客席に提示するのが、上手すぎる
作品冒頭、歌えなくなったカミトの深層心理を表現するように、アンサンブルやほかの出演者が歌い、カミトが悶え苦しみ迷うように踊る場面がある。ここではカミトは歌わず、ただ、踊る。歌は「観客」サイドのものだから、言葉や歌ではカミトの内心を表現する術がない場面だ。その場面を、奏くんはやってのけた。苦悶の表情というよりは、どこか寂しげな表情でその歌に立ち向かって、カミトとしてしっかりと歌に負けた。カミトが、動揺し、悲しみ、苛立ち、辛ささえ覚えているさまを、ダンスだけで表現しきったのだ。
踊り始めた瞬間に人の視線を奪うような、張りつめた空気を作るのが上手だなと思った。ここでふと私は、そうだ、IMPACTorsってダンスがすごいグループなんだな、と思った。普段は当たり前のように見てしまっていたけれど、これがきっと、彼の強みであり、グループの強みだ、と。

これが生かされるには、ただの舞台ではいけないとも思った。彼に、IMPACTorsの松井奏にふさわしい「actors」への第一歩は、ミュージカルであるべきだ、と。だから嬉しかった。この作品が、松井奏の初主演作になった、という事実が。それをこの目で見届けられた事実が。

それと、これはうまく説明できないことなのだけれど、ステージでの立ち振る舞いに堂本光一さんを感じた。あ、この子SHOCKの男だ、と思った。その背中を見て育っているからだろうが、個人的に興奮ポイントだったので敢えて書いておく。
興奮ついでにもうひとつ追記すると、カーテンコール挨拶時、若干間合いで笑いが起こったのに対し大きすぎる目を見開いて「え?」と言った後「今喋ろうとしたんだよ?」と、きょとんとした顔で言い放ったところが理想の松井奏すぎて良かった。サマパラでインパCLAP(私はコール一期生なので、正確にはこの名前ではなかったのだが)の練習をする時に「はいペンライト置いて~うちわも置いて~今置かなかったうちわ絶対見ないからね」と言った松井先生を思い出した。そういうところとても好き。

閑話休題。舞台はすべてそうだけれど、今回は本当に「今しか見られない今」と対峙できて幸せだなと思った。きっとこの先、どんどん「actors」になっていくIMPACTorsの、大切な一歩を見届けられてよかった。それにしても奏くんは本当に脚が長いので、ぜひ見る機会があったら脳がバグるほどのスタイルの良さを体感してほしい。

あと松井奏くんに、はやくモデルのお仕事もお願いします

お芝居もパフォーマンスもモデルもバラエティも、なんでもできるアイドルになっちゃおうぜ。そのポテンシャルがあるのは確信しておりますので。頼むぜ事務所。

ざっくりすぎるまとめになりますが、どう考えても松井奏くんのことをもっと好きになっちゃうミュージカルでした。どうか千秋楽まで、無事に駆け抜けることができますように。